蒼夏の螺旋

   “秋の夜長の入り口で”
 



某有名商社にお勤めのロロノア・ゾロ氏は、
営業部の、どちらかといや外回りの多い部署にいるせいか、
あまり仕事を持ち帰ったりはしないのだが、
直帰になった日などは報告書を家でまとめることもあり。
苦手なパソコンでの作業に四苦八苦しているの、
こちらはインストラクターの資格保持者でもあるルフィさんが
くすくす笑いつつ様子見するなんてこともあったれど。
さすがにもう慣れてきたものか、
テンプレートを呼び出しの、
手帳を引っ張り出して本日出先で得た様々な収拾を書き写しのと、
何とか対処できるようにはなっている。
腕白ながら そちら様も何とか奥様業が身についてきたルフィが、
旬の食材とやらを勉強したり、
今時の料理とやらをまずは自分の舌でも十分味わって研究したりしつつ、
腕によりかけて用意してくれた美味しい夕御飯を堪能してから。
特に憂鬱そうでもない踏ん切りの良さ、さぁてとと向かったのが、
以前は納戸代わり、今はパソコンを設置した書斎部屋へと足を運ぶ。
昼間の内はルフィが、
マンション内の子供向けPC教室の講師として務めている関係から、
あと こっちは世間様には内緒ながら
非常勤として所属する某経営コンサルタント事務所の職員として、
使いこなしておいでの デスクトップの大きいのが鎮座ましましており。
情報管理はきちんと出来ているから使っていいのにと言われちゃいるが、
こうまで御大層なものを使わなくてもと。
キーボードをちょいと隅へ寄せ、
自分のノートPCを取り出して作業に取り掛かるロロノア係長様で。

 “営業部の企画課係長って、やっぱ忙しいんだろうなぁ。”

秋ってイベント多いしなぁなんて、
以前ならルフィもそのくらいの把握だったが、
企画は世に出るときがシーズン最中なのであり、
練ってる段階というと当然のことながら前倒しなのがデフォルトなので。

 “今だと、クリスマス…のはもう始動してるんだろうな。”

企画部といっても最初の原案は別のところから持ち込まれる場合もあって、

 『○○というウィンターキャラを推したいという、
  ××物産からのオファーはどうなった?』
 『Lineのスタンプという形で先行露出させてます。』
 『▽▽社スキーツアーとのコラボはどうなってる?』
 『女性誌のキャンペーンと交渉中です。』
 『スキーウェアの某メーカーからも打診がありました。』

一般の皆様への告知が出来るまでを煮詰めるのが担当、
宣伝活動やイベント自体の実施へは別部署に実働隊がいるので、
手放した途端“過去のもの”となってしまうらしく。
そんなせいでだろう、
一応季節の先取りはしていても 今現在の旬には疎かったりするゾロなのが、
事情を分かっているからこそ、ルフィにはちょっと笑えたりもして。

 “晩酌は書類の後だって我慢したんだから、何か作っといてやるかな♪”

ドアは開けっぱなしという仕事場を廊下からひょいと覗き、
苦手な作業にもかかわらず、
大人しくもデスクワークにいそしむ大きな背中へ。
構ってくれないと愚図ることもなく、
にししと笑った寛大な奥様だったりするのだ。


  それから時を経ること何刻か


うあお〜い、終わったぁ〜っと。
面倒な宿題にも似た苦手な作業を何とかやり遂げ、
ガッツポーズの出来損ないみたいに
天井へ向かって長い両腕を伸ばし、背中も伸ばした御亭主殿。
集中していたせいか今やっと、家の中が随分と静かなことへも気がついて。

 “…?”

まだそれほど遅くはないよな、
ルフィが好きなバラエティの時間帯こそ過ぎてるが、
秋の今頃は特別編成とやらで、3時間スペシャルとか放映しているから、
そんなののどれかでも観ているはずが、

 “…珍しいもの観てないか?”

海外からのスポーツ中継でもなく、ドラマや映画でもなくて、
パネラーがテーブルにつきの、
芸人やタレントなど、よく見る顔ぶれがひな壇に座っている形式の
スタジオ収録もの、いわゆる トーク番組であるらしく。
しかも何だか雰囲気が微妙。
どっと大声でスタジオ中が笑っているような番組じゃないらしく。
知的な文化人をMC に迎えての、
今の日本の経済や政策を判りやすくかみ砕くという趣旨の
バラエティというより いっそ教養番組っぽいものが
大型液晶画面に映し出されているものだから、
ゾロのやや恐持てのお顔の中、
凄めば一番迫力があろう三白眼が眇められてしまっても無理はない。

 「…おや。」

何だどうしたと怪訝そうな顔のまま、
そのテレビと向かい合う位置に据えられたソファーへ背面側から近づけば、
謎かけみたいなこの場の空気の理由が一目で判明したから世話はない。
リビングセットのテーブルには、
ラップがかかった皿に、グリルサンドの山と、
波型にカットされたクリンクルカットのフライドポテトが盛られてある。
細いシューストリングカットだと冷めたら堅くなるからと気を回したらしく。
グラスもあるのはビールか何か飲むかなと思ったからか。
そういったもろもろを用意しておきながら、
ご当人は…? と言えば。
あんまり好みではない番組が始まっていても気がつかないで、
ソファーに並べたクッションの狭間に埋まりかかるよにして、
くうすうと静かに転寝しておいで。

 “そか、俺が仕事片づけるの待ってたんか。”

眠いなら寝室のベッドへ行けばいいものを、
抱き枕風、赤と生成りのシマシマクッションにやわやわの頬を埋めて、
気持ちよさそうに眠っている姿が何ともいとけなく。
観ているだけで微笑みを誘ってしまうのは、
伴侶が相手だからというだけではなかろうて。

 “とはいえ、なあ。”

いい風が入るからと、窓が細く開けられたリビングは、
薄手のTシャツ姿では、ちょっぴり肌寒いくらい。
しょうがないなぁという苦笑を先程の微笑の上へ重ねると、
大きなのっぽの旦那様、
テーブルとソファーの間へ入り込み、少し屈んで腕を伸ばす。
膝の下と背中とへそれぞれ腕を差し入れ、
揺らさぬようにそおっと抱き上げれば、

 “うーん、やっぱ小さいなぁ。”

普段の日中、起きてる態勢で並んでいるときも小さいなぁと思っちゃいたが、
懐に軽々収まってしまうのは、また別の感慨を誘う。
明るい中だということもあってか、
頬にまつげが伏せられた幼い寝顔が間近にあるのへ、
可愛いじゃねぇかと妙に感じ入ってしまったり。
このままでいて起こしてしまっては意味がなく、
あまり振動を与えぬよう、ゆったりした歩調で寝室目指して歩きだせば、

 「……、〜〜〜。」

クッションの柔らかさが堅い感触となり、
浮遊感に迎えられ、そのままゆらゆら運ばれる感覚につつかれたものか、
ルフィの方でもとろりと目が覚めたようで。

 “あでー、寝たままで廊下歩いてるや。”

自分の頬をくっつけているのが、
挟まりかけてたソファーの背もたれじゃあないのへも気がついて、

 “そかー、ゾロ、仕事終わったんだ。”

待ってたリビングで転寝しちゃったらしいと、やっと現状が把握でき。
ひょいと抱えられたのが、ちょっと癪だったけど楽ちんで嬉しくもあって。
どうしてくれようかとうずうずしていたのも、時間にしてほんの刹那の宙返り。

 「隙あり!」
 「お。」

ぐっすり眠っていたくせに、
懐の眠り猫さん、ぎゅうとしがみついて来て、
こちらの胸板へ頬を擦り付けると感触と体温を堪能中になってたり。
本当に仔猫みたいな所作だっただけに、
このヤロめと思いつつも放りだすなんて気は起きず。

 隙なんてあったか?

 おう。スキだらけだぞ?

抱っこされていながらも大威張りの小さな奥方、
背中をひょいと伸ばして顔を近づけてくると、
こしょりと囁いた一言が、

 付け入る隙ってのだけじゃあなくて、
 俺からの好きがいっぱいだvv、と

抱き上げられているというに、
どーだ参ったかとトロリまろやかに笑う奥方だったものだから。

 “うあ、それはずるくねぇか?”

どんな強豪、頑固な職人さんよりも、手ごわい相手だ・むうと
虚を突かれたような顔つきになってしまった
かつての全日本チャンピオン、ロロノア係長だったそうでございます。(笑)




    〜Fine〜  15.10.02.

 *いちもんじ様よりリクエスト 『ルフィの姫抱っこ』


 *ルフィを…よりも、ルフィが…の方を御所望かなと
  思わないではなかったのですが、
  ウチの場合はこっちが収まりがよかったので。(謝)
  あ、でも、ぱぴぃでカイくんをという手もあったかな?(こら)
  原作添い話の場合だと、
  「ゾロに抱っこされっと、どこ連れてかれるか判んねぇし。」
  なぞと、
  本人は“方向音痴”を指して言っているのに、
  どうにでも深読みできそうなことを船長さんが口走りそうで。
  …あ、その方が面白かったかな?(お〜い)

  そして、クッションの画像というか素材が見つからなくて
  そこへ一番時間がかかってしまった謎。(しかも見つからず。)
  相変わらず、探し物は苦手です。


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